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猛暑で前頭葉が疲れる!?「脳の夏バテ」の心理学

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「最近、なんだか頭が働かない」「仕事でうっかりミスが増えた気がする」「子どもに優しくしたいのに、ついイライラしてしまう」そんな変化を感じていませんか?夏になると、「夏バテ」という言葉をよく耳にします。食欲が落ちたり、体がなんとなくだるかったり……多くの方が、身体的な不調を思い浮かべるかと思います。しかし実は、暑さの影響を受けるのは体だけではありません。脳もまた、猛暑によって“夏バテ”状態になってしまうことがあるんです。なぜ暑いだけで集中力が落ちるたり、イライラしやすくなったりするのでしょうか。その鍵を握る、脳の「認知資源」と「前頭前野」の働きについて解説します。

脳にも使えるエネルギーの限界がある

私たちは普段、自分の脳がどれほど多くの仕事をしているかを意識することはありませんよね。勉強や仕事をして「今日は頭を使った!」と思うことがあっても、スマートフォンをいじっている時、夕飯の買い物に行く時、何気ない会話をしている時などに「私今、すごく脳を使ってる!」と思う方は少ないでしょう。

しかし、脳は24時間休まず働き続けています。考える。判断する。感情をコントロールする。人とコミュニケーションを取る。予定を管理する。こうした活動にはすべてエネルギーが必要です。

心理学では、注意力や集中力、判断力といった「考えるための力」を総称して認知資源と呼びます。

この認知資源は無限に使えるわけではありません。スマートフォンの容量のように、一日の中で少しずつ空いてるスペースが少なくなっていきます。たとえば、電子機器は容量が埋まっていくと反応速度が遅くなったりしますよね。疲れている日は集中できなかったり、些細なことでイライラしたりするのはそれと同じで、自分の認知資源が減っているからです。

そして猛暑は、この認知資源を想像以上に消耗させます。

暑いだけで脳は疲れる

人間は恒温動物(体温を一定に保って生活する種)なので、外気温が35度を超えるような猛暑日でも、体温はおおむね一定に保たれています。しかし、これは自然に行われているわけではありません。

脳の視床下部という部分を中心とした体温調節システムが常に働き、汗をかく、血管を広げる、水分不足を感知する、熱を逃がすといった調整を続けています。つまり暑い日は、私たちが何もせず、ぼーっとしていたとしても脳は余分な仕事を抱えている状態なのです。

たとえるなら、パソコンで大量のアプリを同時に起動しているようなもの。普段なら余裕で動く作業も、処理能力の一部が別のことに使われているため、動作が重くなりますよね。脳でも同じことが起こるんです。

暑さへの対応にエネルギーが使われることで、本来であれば仕事や家事、人間関係に使えるはずの認知資源が減ってしまいます。その結果、集中できない、考えがまとまらない、やる気が出ない、といった状態が起こりやすくなります。

前頭前野は“脳の司令塔”

脳バテを理解する上で欠かせないのが、前頭前野の存在です。前頭前野は額の裏側にある脳の領域で、人間らしい高度な機能を担っています。

例えば、感情をコントロールする、衝動を抑える、集中力を維持する、計画を立てる、優先順位を決める、相手の気持ちを考える、といった働きをするところ。

心理学では、これらをまとめて「実行機能」と呼びます。

実行機能は、脳の社長や司令塔のような役割を担っています。ところが、この前頭前野は疲労や睡眠不足、ストレスの影響を非常に受けやすい部位なんです。そのため暑さによって脳が疲れてくると、まず前頭前野の働きが低下しやすくなります。

すると、「また同じことを言ってる!」「何度言ったらわかるの?!」と強く相手に言ってしまったり、「なんでこんなこともできないんだろう」と自分を責めてしまったりする可能性も。

本来の自分なら冷静に対応できる場面でも、前頭前野が疲れていると感情のブレーキが効きにくくなるのです。

イライラするのは性格の問題ではない

夏になると夫婦喧嘩が増えたり、職場でイライラしやすくなったりする人も少なくありません。実際、気温の上昇と攻撃性の関連については、これまでさまざまな研究が行われています。

もちろん「暑いから怒る」という単純な話ではありません。しかし暑さによって不快感が増し、睡眠の質が低下し、前頭前野の働きが落ちることで、感情のコントロールが難しくなることは十分考えられます。

精神科外来でも、「最近イライラしやすいんです」という相談の背景を丁寧に聞いていくと、睡眠不足や暑さによる疲労、脱水傾向など、直接的に関係なさそうなことが関連していることがあります。

自分の心の状態を考える時、多くの人は性格やストレスだけに注目しがちです。しかし実際には、脳のコンディションが感情に与える影響は決して小さくありません。

脳バテの最大の原因は睡眠不足

夏の脳を疲れさせる大きな要素である”睡眠”。

熱帯夜が続くと、寝つきが悪くなる、夜中に目が覚める、深い睡眠が減るといった変化が起こりやすくなります。

脳は、睡眠中に情報整理や疲労回復を行っています。つまり睡眠不足は、脳の充電不足と同じ状態です。特に前頭前野は睡眠不足の影響を受けやすいことが知られています。

そのため、やる気が出ない、集中できない、感情的になるといった変化が起こりやすくなるのです。

夏になると「自分が怠けている気がする」と感じる人がいます。しかし、その背景には単なる気持ちの問題ではなく、睡眠不足による脳機能の低下が隠れていることも少なくありません。

頑張るより、脳を休ませる

真面目な人ほど、「もっと頑張らなきゃ」「気合いが足りない」と考えがちです。しかし脳科学の視点から見ると、疲れた脳に必要なのは根性ではなく休息です。認知資源は意志の力だけでは回復しません。

十分な睡眠、適切な水分補給、エアコンを活用した温度管理、やることを少し減らす工夫。こうした基本的なセルフケアこそが、前頭前野の機能を守るためには大切です。

とくに子育て中や仕事で忙しい女性は、自分の疲れを後回しにしがちです。しかし、自分の脳が疲れ切ってしまえば、仕事も家事も育児も思うようには回りません。だからこそ夏は「もっと頑張る方法」ではなく、「脳を疲れさせない方法」を考えてみてください。

水分や栄養補給、熱中症対策などの体調管理と同じくらい大切なのが、脳のコンディションに目を向けることです。集中できない、やる気が出ない、イライラする……もしかするとそれは、猛暑の中で働き続けている脳からのサインかもしれません。

暑い夏こそ、自分を責めるよりも、自分の脳をいたわる。そんな視点を持つことが、心の健康を守る第一歩になるのではないでしょうか。

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木村好珠
Writer 木村好珠

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