Paranaviトップ お仕事 働き方 「自分が作ったものをおいしく食べる幸せ」、暮らしと仕事が一体になった農業の魅力とは?

「自分が作ったものをおいしく食べる幸せ」、暮らしと仕事が一体になった農業の魅力とは?

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自然豊かな生活には憧れるものの、「農業を仕事にする」というと、体力的に大変だったり、天候によって収穫が不安定だったり、未経験者にとってはハードルが高いと思われる人も多いかもしれません。実際、就農経験のない人がいきなり農業に取り組んでみたところで、果たして仕事としてやっていけるものなのでしょうか?今回は、静岡県と埼玉県で、それぞれ初めて取り組んだ農業を大きく育てようしている2人の女性の思いとは?

「シンプルに生きよう」としたとき、農業にたどり着いた

ーーそれぞれ静岡県と埼玉県で、農業を営んでいる望月さんと田島さん、今どこでどんな農業をされているのか教えていただけますか。

望月綾さん(以下、望月) 静岡県富士市で「岩本マウンテンゴリラれもん」という農園でレモンを作っている望月です。化学農薬・化学肥料を使わずに「璃の香(りのか)」という酸味の少ないレモンなどさまざまな品種のレモンを作っています。家族は夫と高校生の子どもが2人。私一人で6年前からレモンづくりに取り組み、一昨年に初収穫しました。

田島友里子さん(以下、田島) 埼玉県さいたま市で自然栽培の「こばと農園」を運営している田島です。10年前に農園をスタートしました。夫は公務員で単身赴任中、小学生の子どもが2人います。1年のうち半分は一人で農業、繁忙期は12名(パート8名、就労支援3名、研修生1名)の方に手伝ってもらっています。新規就農で有機農業をめざす人の横のつながりを作ろうと「さいたま有機都市計画」というグループを結成しました。また、さいたま市内の小中学校や保育園に有機給食のための野菜を納品しています。

富士山の見えるレモン農園

富士山の見えるレモン農園「岩本マウンテンゴリラれもん」

ーーお2人とも初めての農業(初就農)とのことですが、農業をされる前のキャリアと農業をやってみようと思ったきっかけを教えてください。

望月 就農前は、20年間、JAの職員をしていました。貯金の窓口や営農の担当をした後、最後の7年間は広報担当で富士市全体の農協の広報誌やテレビ・ラジオの撮影対応などをやってました。農業を始めたきっかけは岩本山にある祖父のお茶畑を譲り受けたことです。お茶畑は、一人での収穫作業が難しく、レモンを植えてみようと思い始めました。

田島 農業をやる前は大学院で美術を学んでいました。絵の制作をしたくて、美術の教員になろうかと思っていたのですが、実際に現場に立つと大変で、教師は断念。かといって、就職するのもちょっと違うなといろいろと模索していたのですが、シンプルに生きることを考えたときに食べ物を作るというのがわかりやすかったんです。祖父が兼業農家で、実家も米だけ作るサラリーマン農家だったのが、農業の原体験としてありました。

ーー農業となんらかの結びつきのあったお2人ではありますが、自分が農業をするのは初めて。どうやって農業のやり方を学ばれたのですか?

望月 農協に勤めていた頃、職員が米や野菜を作っていて、ある程度農業のことはわかっていました。また、広報担当として取材をしながら育て方を一緒に学んでいたので、基本的なことは身についていたんです。

そのときに知ったのが、耕作放棄地が増えてきた一方で、今までは暖かい地域でしか育てられなかったレモンが、温暖化で寒いところでも育てられるようになってきているということ。私が住んでいる富士市は、海抜0メートルから富士山あたりまでとかなりの標高差があるのですが、私が引きついだ岩本山でも育てられるかもと思って植えてみようと思いました。

受け継いだ茶畑は、7反(1反=約1000平方メートル)だったのですが、借りたり買い増したりして、今ではレモン4反(約1200坪)、野菜約1500坪を作っています。

田島 研修や援農など学ぶ手段はありますが、大学院時代に近くの自然栽培をされている農家に研修という名目で手伝いに行ってました。卒業後は、北海道の町がやっている研修に1年通いつつ、農家や牧場にも手伝いに行ってました。

結婚してさいたま市に来て、いきなりの就農というのはいろいろと条件があって難しく、「まずは学んでください」と言われて、埼玉県の農業大学校に入り有機栽培のコースで1年の勉強を経てから今の場所で農業を始めました。

いきなり全てやめて農業を始めるのはリスキー

ーー農業をやろうと決心したら、研修や手伝いなどなんらか農業を学ぶ場はあるのですね。

望月 地域によっては、JAのサポートもあります。JAが給料を払って、新規就農者が農家に働きにいくという制度があります。また、県や市のサポートで農家に2年間研修に行って、その後に補助金をもらいながら3年間は生活できるという制度があります。知り合いに農家がいたら、バイトなどの機会はいっぱいあります。

こばと

さいたま市で「こばと農園」を営む田島友里子さん

田島 農業をやりたいと思ったらまず行政に相談をすることです。各自治体に「農林振興センター」があるので、まずはアクセスしてみること。また、首都圏でも「農業フェア」のような名称で農業における「就活セミナー」が開催されることもあります。また気になる農家がSNS発信をされていたら、直接DMすることもできますよね。今は情報が豊富なのでいろいろとアクセスしてみるとよいと思います。

週末だけ農家を手伝うというのもできます。「こばと農園」もお手伝いを随時、募集しています。就農する前に農家を訪れてみたり、家庭菜園をしたりしてみるなど、農業に触れて、まずやってみることは大事です。いきなり今の仕事を辞めて、すべて農業にというのはリスクが大きいので、まずは家庭菜園からとか、両立の一端として農業を始めたらよいのではないでしょうか。特に女性はいろいろなライフイベントもありますから、どれくらい農業をやりたいのか、暮らしに取り入れたいのかビジネスとしてやるのかなど考える必要はありますね。

ーー農業との接点は意識すればいろいろ見つかるということですね。そうして就農されて感じるメリット、農業の魅力はなんですか?

望月 自分の作ったものがおいしいときに収穫して食べられるという幸せ」でしょうか。いちばん野菜のおいしいときの本来の味というのは、流通を経て市場に出るものとはやはり違います。それは、自分で作ってみないとわからないと思います。

田島 農業の魅力は「四季を感じられること、自然のなかではなかなかうまくいかないと理解できること」。種を蒔いても農作物がうまく育たないこともあるわけです。自然の感覚に戻されるというか、人間がいかに傲っているかが感じられます。

ーー実際の働き方は毎日、どのような感じでしょうか?

望月 ほぼ毎日、朝8時半から日が暮れるまで畑に出ています。ちょっと行かないと虫がいたり獣がいたり、自然相手ですから状況が変わってしまっていて、嫌気がさすこともあります。

田島 朝から晩まで1年中大変ではありますが、それも魅力だと思っています。フリーランスなんで休もうと思えばコントロールはできますし、思っているよりはハードワークではないのかなと思います。季節に合わせて「暮らしと仕事が一体になってくるという感覚」というのがとてもある仕事だと思います。夏はタオルケットを出して、冬は毛布を出して、というのと同じような感覚なんです。

作って終わりではなく、どう売るか?まで考える

ーーとても自然にそった仕事なのですね。農業のここが大変だと思われることは?

望月 農耕用の機械がないと大変な部分もあるので、お金がかかる部分はありますね。農機具が壊れると修理も専門のところになりますし。自分の場合は、人からもらったりしましたが、初期費用はかかると思います。その割に、収益が保証されているわけではないので、そのあたりのリスクをどう考えるかですね。

田島 いかにお金を稼ぐかという経営の部分は大変です。実家が農業でなければ、土地も含めて、野菜や比較的安いのですが果樹では何千万円もかかる場合もあります。野菜でも決まった収入を得るにはある程度の面積が必要で、そのためには耕作機械やそれを納める場所も必要です。やはり農家を引き継いでやっていくのが普通で、私たちのような初就農は珍しいケースです。

こばと農園のメークイン

「こばと農園」で5月に収穫されたメークイン

ただ、補助金もあるのでやり方次第で、工夫のしがいはあります。そこを楽しめるかどうかは、自分次第ですね。

農作物を作るのがまず大変ですが売り方も考えないといけません。私の場合は、さいたま市がマーケットで人口もあって困ってはいないのですが、地方都市ではどのように売るかを考える必要があります。どんなものをどこで作ってどこで売るかを考えないといけないのです。自分が取り組んでいる自然栽培や有機栽培の農作物については、さいたま市の市場と相性がよくて、購入したいという人も増えている状況です。

ーーお2人の今後の夢を聞かせてください。

望月 富士山の見えるレモン畑での収穫や自分でレモンを絞ったりといった農業体験も提供できればいいなと思っています。一般にレモンといえばすっぱいというイメージしかなくて、いろんな品種があって味がそれぞれ違うことが知られていません。それをもっと知ってもらいたいと思っています。

岩本マウンテンゴリラレモン

化学肥料や化学農薬を使わずに有機物を使って育てたレモンは実が大きくとてもジューシー

レモンを作る人は、とにかく味より多量に作ることを目指す人が多いのです。私は、レモンを味わいに、富士市にゆっくり来てもらって、その味にわくわくしてもらたいです。

将来的にはキッチンカーなども入れて農園で遊べる観光農園をしたいです。さらにそこでいろいろ農業体験のできる公園のような体験型テーマパークにできればなと思います。

田島 自分は、おばあさんになるまでずっと農業をやっていきたくて、細く長くでいいので農業と一緒に人生を歩んでいきたいです。そのなかで、地産地消で「さいたま市でつくったものをさいたま市の人が食べる」という基本的なことを進めていきたいです。それによって作る人も食べる人も幸せになると思います。今、スーパーなどで野菜を買って、誰が作っているかも考えずに野菜をただの食べ物として食べているというのが普通ですよね。野菜を食べるとき、野菜を作っている人を感じられて、さらに知っている農家さんが作った野菜だと満足度がまったく違うのです。それが自分の地域で 作られているものだと自分の地域を知ることになります。

さいたま市は、それができやすい環境なのです。駅の近くは大都市ですが、車で10分も走ると畑が広がっていて地産地消が実現しやすい。そのことをもっと知ってもらいたいと思っています。

岩本マウンテンゴリラれもん
こばと農園 

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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